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すきなものいっぱい!

*

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年*村上 春樹

   

良いニュースと悪いニュースがある。
多崎つくるにとって駅をつくることは、心を世界につなぎとめておくための営みだった。あるポイントまでは…。

ずっと読めなかった村上春樹氏の最新刊。
思いがけず、会社のスタッフが持っていたので喜んで貸してもらう。
年末のある日、2日間かけて一気読みしてしまった。
そんなに急ぐこともなかったのだけど、続きが気になって仕方がなかった。

私も色を持っている。
そして、その色は村上氏の別の著作でも登場したことがある。

高校のときにしっかり結びついたグループがあり、
その中で自分だけが彼らの共通事項から外れていたら、どれだけ不安に思うだろう。
しかも決定的に外れていて、後からそれを習得できるものでもない。
「いつかこの人たちからは仲間はずれにされる」という思いは決定的ではないか。

それは、決して周囲の人たちからは口に出されなくても、
もし仲間から外れるとしたら、自分しかない、という思い。
そしてそれが実際に起こったとしたら。

(ねたばれ含みます)

ブログを週末だけは更新しようと思っていたのだけど、覗いてみたら毎週どころか!!
1.5ヶ月も放置しているではないですか!!
現在、仕事が一年で一番忙しい繁忙期。
週末もまともになかったりで、心の余裕がなくなっているのも原因かも。

この多崎つくる君も早く感想を書いて、彼女に返却したいのだけど、
なかなかままならず。
今日こそ書いて、今週中には彼女に返却しよう♪

沙羅という存在が現れて、多崎君は過去と向き合うように頑張ってみるのだけど、
彼女が現れなかったら、きっとそのまま封印していたと思う。
それが彼にとって、大きな暗い、目に見えない影として今に影響を及ぼしていたとしても。

彼らとの断絶が死の淵に立たされるくらいの落ち込みをもたらしたものならば、
なおさら、もう二度と同じショックを味わいたくないから。
紐解いていくのが、たとえ大きな誤解ではないか、と分かっていても怖い。

嫉妬とは--つくるが夢の中で理解したところでは--世界で最も絶望的な牢獄だった。
なぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ。
誰かに力尽くで入れられたわけではない。
自らそこに入り、内側から鍵をかけ、その鍵を自ら鉄格子の外に投げ捨てたのだ。
そして彼がそこに幽閉されていることを知るものは、この世界に誰一人いない。
もちろん出ていこうと本人が決心さえすれば、そこから出ていける。
その牢獄は彼の心の中にあるのだから。
しかしその決心ができない。
彼の心は意思壁のように硬くなっている。
それことがまさに嫉妬の本質なのだ。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

村上氏は内面の描写がうまいなぁ~と思う。
マイナスな感情って、どれもこれもこうだもの。
本人は「周りの人が鍵を持っているから、自分では出られない」と思うし、それを真実だと思っているので、
ついには「どうしてオレがこんなにも苦しんでいるのに、鍵を持っているヤツラは助けてくれないのか!?」と周囲に責任転嫁する。
すべては自分の手のうちにあるのに。

また朝の早い時刻に大学のプールで泳ぐようになった。
筋肉が落ちたために、階段を上るのにも息切れするようになっていたし、彼としてはそれを少しでも元あった状態に戻さなくてはならなかった。
新しい水着とゴーグルを買って、毎日千メートルから千五百メートルをクロールで泳いだ。
そのあとジムに寄って、黙々とマシンを使った運動をした。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

読んでいると、いつも「あ、走りたいな」と思う。
残念ながら、ようやく仕事が落ち着き始めた先週から、2週連続で雪。
こういうときと、夏の暑い時期は、スポーツクラブを契約している人をうらやましく思う。
ランニングマシンは、路上を走っている人にとっては疲れるものだけど、
走るためなら、四の五の言ってられない。
しかし、路上ランナーの人たち、東京マラソンに向けての最終調整、どうやってるんだろう??

こういう文章を読んで、そういう気持ちになれるのは、
村上氏自身が地道なランナーであり、アスリートであるからだ。
文章がとても自然。
とってつけたような多崎くんの特徴ではなく、多崎くんが泳いでいる様子が想像できそうなくらい自然だ。

キャラクターはミスター・グレイがいいな♪
控えめで、ミステリアス、クラシック好き。

初めて「ル・マル・デュ・ペイ」を聞いているけれども、シロの様子が手に取るように伝わってくる曲
リスト:《巡礼の年 第1年スイス》 S 160 8 郷愁 ル・マル・デュ・ペイ

彼女の家の居間に置かれたヤマハのグランド・ピアノ。
シロの几帳面な性格を反映して、常に正しく調音されている。
艶やかな表面には曇りひとつなく、指紋ひとつついていない。
窓から差し込む午後の光。
庭の糸杉が落とす影。
風に揺れるレースのカーテン。
テーブルの上のティーカップ。
後ろに端正に束ねられた彼女の黒い髪と、譜面を見つめる真剣な眼差し。
鍵盤の上に置かれた十本の長く美しい指。
ペダルを踏む二本の足は、普段のシロからは想像もできないような力強さを秘め、的確だった。
そしてふくらはぎは釉薬が塗られた陶器のように白くつるりとしていた。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

私はシロにあこがれるクロ。
自分の性格も、色の具合(日焼け具合)もクロといった風だ。
いつもシロに憧れている。
あんな風にピアノを弾くことはできない、あんな風にはかない少女でいられない。
この曲を聴いていると、そういう思いを強く持ってずっとすごしてきた時期を思い出す。

緑川さんの言葉。
精神的な面を鍛錬している私にはとても響く言葉。

知覚というのはそれ自体で完結するものであり、それが何か具体的な成果となって外に現れるわけじゃない。
御利益みたいなものもない。
それがどんなものだか、口で説明するのは不可能だ。
自分で実際に経験してみるしかない。
ただひとつ俺に言えるのは、いったんそういう真実の情景を目にすると、これまで自分が生きてきた世界がおそろしく平べったく見えてしまうということだ。
その情景には論理も非論理もない。
善も悪もない。
すべてがひとつに融合している。
そして君自身もその融合の一部になる。
君は肉体という枠を離れ、いわば形而上的な存在になる。
君は直感になる。
それは素晴らしい感覚であると同時に、ある意味絶望的な感覚でもある。
自分のこれまでの人生がいかに薄っぺらで深みを欠いたものだったか、ほとんど最後の最後になって君は悟るわけだからな。
どうしてこんな人生にそもそも我慢できたのだろうと思い、慄然とする。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

普通の人ならば出てこない言葉の数々にビックリする。
それは私が村上氏を好きな理由の一つかもしれない。

そして緑川さんが言った最後のことば。

「君がこの話を信じても信じなくても、俺にとっちゃどっちでもかまわんことだ。
なぜなら君は遅かれ早かれ、この話を信じることになるからだ。
君もいずれは死ぬ。
で、死を迎えたとき--いつどんな視に方をするかは知らんが--必ずこの話を思い出す。
そして俺が言ったことを丸ごと受け入れ、そこにある論理を隅々まで理解するだろう。
真の論理をな。
俺はただその種子を蒔いただけだ。」
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

アカの仕事はすごい。
こんなことができたら、そりゃあある種の人からは疎まれるだろうけど、
大多数の、人を効果的に動かしたい人からは引き合いがとまらないだろう。

「宗教カルトや自己啓発セミナーの目的はおおむね金集めにある。
そのために荒っぽい洗脳が行われる。
うちはそんなことはしない。
そんな胡散臭いことをやっていたら一流企業には受け入れられない。
力尽くの荒療治も駄目だ。
一時的に派手な効果は発揮しても、長くは続かない。
ディシプリンを叩き込むことは大事だが、プログラム自体はどこまでも科学的で、プラクティカルで、洗練されたものでなくてはならない。
社会常識の範囲内に収まるものでなくてはならない。
またその効果はある程度持続しなくちゃならない。
おれたちの目標は何もゾンビをこしらえることじゃない。
会社の思惑どおりに動きつつ、それでいて『私は自分の頭でものを考えている』と思ってくれるワークフォースを育成することだ。」
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

エリの言葉がいいな、と思う。

たとえ完全なものではなくても、駅はまず作られなくてはならない。
そうでしょ?
駅がなければ、電車はそこに停まれないんだから。
そして大事な人を迎えることもできないんだから。
もしそこに何か不具合が見つかれば、必要に応じてあとで手直ししていけばいいのよ。
まず駅をこしらえなさい。
彼女のための特別な駅を。
用事がなくても電車が思わず停まりたくなるような駅を。
そういう駅を頭に思い浮かべ、そこに具体的な色と形を与えるのよ。
そして君の名前を釘で土台に刻み、命を吹き込むの。
君にはそれだけの力が具わっている。
だって夜の冷たい海を一人で泳ぎ切れたんだから。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 より

こんな風にエリに言われたら、私もそれを作れるかも、と思う。
かつて自分を好きになってくれた人から言われたら。

私のボスは、この駅を作る行為を「点を作る」という。
点が作られれば、あとはなんとかなるものだ。
まず最初の点を作ることが一番難しい。

もちろん、悪習のような点は簡単につけられる。
それは自然にあっという間に作ることができるし、その作った点にともなって、血液をそこに流し込むことも簡単。
だけど、真実のとっかかりとなる点は、多くの人が求めていると思うけれども、なかなか作れるものではない。

自分の駅を、点を大切に育てていこう。
不具合がみつかれば、直せばいい。
少しずつ、最初の思想を忘れず、持ちつづけ、誠実に育てていくのだ。


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